900万戸の衝撃:7軒に1軒が空き家という現実
朝の通勤路で、雨戸が閉まったままの家を見かけたことはありませんか。草が伸び放題の庭、郵便受けからあふれるチラシ——こうした光景は今、日本全国で日常的な風景になりつつあります。
総務省の2023年統計によると、日本の空き家数は約900万戸に達し、全住宅の13.8%を占めています。これは約7軒に1軒が空き家という深刻な状況です。東京ドーム約19万個分の土地に、誰も住まない家が建っている計算になります。
なぜ空き家は増え続けるのか
人口減少だけではない複雑な背景
空き家増加の要因は、人口減少だけではありません。私たちの生活様式の変化や社会構造の問題が複雑に絡み合っています。
相続した実家の行き場
地方から都市部へ移住した世代が親の家を相続しても、「仕事の都合で戻れない」「売却したくても買い手が見つからない」「思い出があって手放せない」といった理由で、管理されないまま放置されるケースが増えています。
解体をためらう経済的理由
古い家屋の解体には平均200万円前後の費用がかかります。さらに、建物を取り壊すと土地の固定資産税が最大6倍に跳ね上がるケースもあり、「そのままにしておく方が経済的」と判断する所有者も少なくありません。

空き家が地域にもたらす深刻な影響
隣の家が空き家になったら起こること
空き家問題は、近隣住民の生活に直接的な影響を与えます。
治安の悪化
- 不審者の侵入や不法占拠のリスク
- 放火などの犯罪の温床になる可能性
- 地域全体の防犯力の低下
衛生環境の悪化
- 害虫(シロアリ、ハチなど)や害獣(ネズミ、ハクビシンなど)の繁殖
- 不法投棄のターゲットになりやすい
- 悪臭や害虫による近隣への被害拡大
災害時の危険性
- 台風による屋根瓦や外壁の飛散
- 地震による倒壊で避難路がふさがれる
- 老朽化による自然倒壊のリスク
自治体が動き出した:京都・神戸の新たな取り組み
京都市の「非居住住宅利活用促進税」
京都市では、2026年度の導入を目指していた「非居住住宅利活用促進税」を、事業者との調整のため2029年度に延期しました。この税制は、居住実態のない住宅の所有者に課税することで、賃貸や売却を促す仕組みです。
背景には、民泊転用による住宅不足と地域コミュニティの空洞化があります。観光都市として発展する一方で、実際に住民が暮らせる住宅が減少している現状を改善するための政策です。
神戸市のタワーマンション空室対策
神戸市では、高さ60メートル以上(約20階建て以上)のタワーマンションを対象とした空室税の検討が進んでいます。2025年1月の有識者会議報告書を基に、制度設計の議論が本格化しています。
投資目的で購入された高層階の部屋が、実際には誰も住まないまま放置されている実態が明らかになり、居住実態のない部屋への課税を検討中です。

全国に広がる空き家活用の成功事例
地域を変える新しいアイデア
空き家バンクの進化
従来の空き家バンクに加え、オンライン内覧や移住体験プログラムを組み合わせた自治体が増加。若い世代の地方移住を後押ししています。
リノベーションによる地域活性化
- 古民家を改装したカフェやゲストハウス
- シェアオフィスやコワーキングスペース
- 地域の交流拠点としてのコミュニティスペース
企業と自治体の連携
大手住宅メーカーと自治体が提携し、空き家の診断から活用提案まで一貫したサービスを提供する事例も登場しています。

私たちにできること:空き家問題への向き合い方
個人レベルでの対策
実家の将来を家族で話し合う
相続が発生する前に、実家の将来について家族全員で話し合っておくことが重要です。感情的になりやすいテーマだからこそ、早めの準備が必要です。
地域での見守り活動
町内会や自治会による空き家パトロールに参加し、問題の早期発見に協力することも大切な取り組みです。
情報収集と相談
自治体の空き家相談窓口や、NPO法人が提供する相談サービスを活用し、正しい知識を身につけることから始めましょう。

まとめ:空き家問題は「未来への投資」
900万戸という数字は、単なる統計ではありません。それぞれの家には、かつてそこで暮らした人々の物語があり、地域の歴史が刻まれています。
人口減少社会において、すべての家に住み手を見つけることは困難です。しかし、空き家を「負の遺産」として捉えるのではなく、「地域資源」として活用することで、新たな価値を生み出すことができます。
空き家問題の解決は、持続可能な地域社会を築くための重要な一歩です。一人ひとりが関心を持ち、できることから行動を起こすことで、私たちの街はもっと住みやすくなるはずです。
あなたの街の空き家も、誰かの新しい暮らしの舞台になるかもしれません。まずは身近な空き家に目を向け、地域の未来について考えてみませんか。


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