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「脱中国」はもう大丈夫、と言い切れるのか――レアアース多角化ニュースを読んで感じた、ひとつの疑問

「脱中国」はもう大丈夫、と言い切れるのか――レアアース多角化ニュースを読んで感じた、ひとつの疑問
中重希土類の精製で中国が9割超を握る構造的現実は、多角化の努力にもかかわらず変わっていない。

日経新聞の「双日、豪からレアアース 来年にも輸入品目拡大 EV・防衛、安定に寄与 供給網多角化」という記事。総合商社の双日が、オーストラリア産のレアアース(希土類)の輸入品目を現状の2品目から最大6品目に拡大する、という内容です。電気自動車(EV)のモーターや戦闘機の永久磁石、原子炉の制御棒に使われる希少な素材を、中国以外から調達できる体制を整えつつあると言うのです。

見出しには「EV・防衛、安定に寄与」とありますが、本当に、大丈夫なのでしょうか。


そもそも「中重希土類」とは何か

レアアースは「希土類」とも呼ばれる17種類の金属元素の総称で、現代のハイテク産業には欠かせない素材です。スマートフォン、EV、ミサイルの誘導装置、医療機器――どれもレアアースなしには成り立ちません。

その中でも今回話題になっているのは「中重希土類」と呼ばれる種類です。原子番号の大きいグループで、採掘・精製がとりわけ難しいと言われています。あまり聞いたことのない、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウム、ガドリニウム、イットリウムといった種類は、EVのモーターに不可欠な高性能磁石の「添加剤」として、あるいは原子炉の制御棒として、産業の根幹を支えている素材なのです。

そしてこの中重希土類は、採掘から精製まで含めると、世界のほぼすべてを中国が供給しています。「ほぼすべて」というのは誇張ではなく、国際エネルギー機関(IEA)の統計では精製工程における中国のシェアは9割を超えています。


「依存度が下がった」は本当か

日本の対中レアアース依存度が低下してきたと言われています。実際、数字の上では改善が見られます。2010年には約9割を中国からの輸入に頼っていたのが、2024年には約70%にまで下がったとされています(JOGMEC統計ベース)。

これ自体は事実です。双日やJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)がオーストラリアのレアアース企業「ライナス」に出資し、マレーシアの精製施設でジスプロシウムとテルビウムを生産・輸入してきた成果でもあります。日本政府と企業が15年以上かけて積み上げてきた努力は、正当に評価されてよいと思います。

しかしここで注意が必要なのは、この「70%」というのはレアアース全体の平均値だという点です。今回の記事が扱っている中重希土類――とりわけ精製工程――に絞れば、話はまるで変わってきます。

中重希土類の精製における中国の世界シェアは、依然として9割超です。「全体の依存度が下がった」ことと、「中重希土類の供給が安定した」こととは、同じではありません。


ライナスはどこまでカバーできるか

今回のニュースで注目されているのは、双日がライナスを通じてオーストラリア産の中重希土類の輸入品目を増やす、という点です。2027年半ばまでに、現在輸入しているジスプロシウムとテルビウムに加え、サマリウム、ガドリニウム、イットリウムなど最大4品目を追加する見通しだと言います。

しかし、具体的にどの程度の量を日本の需要に対して賄えるのか、明確にされていません。サマリウムについては「双日の輸入量は未定」とあります。

現在確認できるのは、すでに輸入しているジスプロシウムとテルビウムについて、ライナスが「最大65%を日本向けに供給する契約」を結んでいるという点です。この2品目に限れば、将来的にはフランスの精製企業「カレマグ」(JOGMECと岩谷産業が出資)からの供給(日本の需要の約20%相当を見込む)と合わせて、理論上は中国依存度を15%程度まで下げられる計算です。

ただし、これはあくまでジスプロシウムとテルビウムの2品目だけの話です。中重希土類全体で見れば、依然として精製段階で中国シェアは9割超のまま。サマリウム以下の新規品目についてはまだ「生産を始める予定」「輸入できるとみる」という段階にとどまっています。現時点で確立しているわけではありません。


採算という、もう一つの現実

さらに重要な採算性の問題があります。

オーストラリアのマウント・ウェルド鉱山は、中重希土類の含有率が約5%にとどまります。一方、中国南部には含有率が約50%に上る鉱床もあります。単純に言えば、同じ量の中重希土類を採るのに、オーストラリアでは中国の10倍の量の鉱石を掘らなければならない計算になります。豪州産のコストが「大幅に上回る」のは当然のことです。

さらに精製工程では、中重希土類を取り出す過程で、需要を超える量のセリウムやランタンなど「軽希土類」が副産物として発生します。これらの処理・販売がコスト負担となる構造的な問題もあります。

この採算問題の「解決策」として記事が挙げているのが、米国が提案している「最低価格制度」です。中国の安価なレアアースに対抗するため、輸入時に関税をかけて市場の最低価格を保証する仕組みを、日本・EU・米国で共同構築しようという構想です。

ただ、これは2026年2月時点で、米国が「提案した」段階にあります。実現の見通しも、制度の詳細も、まだこれからです。採算性が確立していない状態で「安定供給体制が整いつつある」と読めるような記事を書くのは、少し気が早くないでしょうか。


2010年の記憶は活かされているか

日本はかつて、中重希土類の供給リスクを身をもって体験しています。

2010年9月、尖閣諸島沖での漁船衝突事件をきっかけに、中国が事実上のレアアース輸出規制を発動しました。財務省の貿易統計によれば、その年の9月に2,246トンあった中国からのレアアース輸入は、10月には1,278トンに急落しています。わずか1カ月で44%減という衝撃でした。

この教訓を受けて日本は供給多角化に動き出し、双日のライナスへの出資もそのひとつでした。あれから15年。対中依存度は確かに下がりました。しかし精製段階での中国シェアが今も9割超という現実は、構造的な問題がいまだ解消されていないことを示しています。

そして今年(2026年)1月、中国商務部は再び動きました。軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出を即日禁止する措置を発動したのです。15年前の教訓が、また繰り返されています。

野村総合研究所などの試算では、レアアース輸入が3カ月間停止した場合の経済損失は約6,600億円、1年間では2.6兆円に達するといいます。多角化を進めている「途中」の段階でも、このリスクは現実に存在しているのです。


「努力している」と「解決した」は違う

双日やJOGMEC、そして政府の取り組みを否定したいわけではありません。ライナスへの長期的な関与、カレマグへの出資、備蓄制度の整備、レアアースフリーモーターの開発支援――いずれも必要な手を打ってきたと思います。G7の中では、日本は中国外のレアアース供給網の構築において、最も先行している国のひとつです。

問題にしたいのは、「努力している」という事実と、「リスクはほぼ解消された」という印象が、ひとつの記事の中でいつの間にか混ざり合ってしまうことです。

「来年にも輸入品目拡大」「EV・防衛、安定に寄与」という見出しは、前向きなニュースとして読者に届きます。それ自体は間違いではありません。しかしその記事を読んだ後で、「中国との関係が悪化しても、もう大丈夫だ」という印象を持つとしたら、それは現実とずれています。


楽観主義のコスト

経済安全保障の文脈で「脱中国依存」を語るとき、そこには必ず「コスト」の話がついてまわります。採算の取れない鉱山への補助、割高な素材を使い続けるメーカーの負担、市場価格を支える「最低価格制度」の財政的コスト。多角化はただではできません。

だからこそ、現実の数字を正確に共有することが大切です。「どこまでできていて、どこからが課題なのか」を社会が理解していなければ、必要な投資に対する国民の納得も得られませんし、政策のたるみも生まれやすくなります。

「脱中国は着実に進んでいる」という空気が広がれば、危機感が薄れ、次の一手が後回しになります。2010年の衝撃が15年後も完全には解消されていない理由のひとつに、そういった楽観論の積み重ねがなかったとは言い切れません。

双日の今回の取り組みは、確かな一歩です。しかしそれは、まだ長い道のりの途中にある一歩にすぎません。中重希土類の精製で中国が9割超のシェアを握るという構造的な現実を正面から見据えた上で、次に何が必要かを考える姿勢こそが、本当の意味での経済安全保障ではないでしょうか。

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