3月19日の試練──日米首脳会談で日本は何を求められるか

2026年3月の日米首脳会談が近づいている。トランプ大統領から届いた「全面支持」のメッセージ、その裏にはどうやら複雑な事情がありそうだ。日本はいったい何を求められるのだろうか。
あの「全面支持」、タダじゃなかった?
2026年2月5日、ちょっと驚くことが起きた。日本の衆議院選挙の真っ最中に、トランプ大統領が高市早苗首相への「完全かつ全面的な支持」を表明したのだ。外国の選挙にここまで踏み込むのは、日米関係でも前例がない。
一見ありがたい話に聞こえるけれど、トランプ流の「支持」にはだいたい見返りがセットになっている。日経新聞も指摘しているように、この支持表明は無償ではない。3月19日の日米首脳会談は、いわば「請求書」を渡される場になるかもしれない。
実はかなり怒っている──投資が遅れているという問題
首脳会談の前に知っておきたいのが、水面下でくすぶっている火種だ。
2025年7月の関税交渉で日本が約束した5,500億ドル(約86兆円)の対米投資。これがかなり遅れている。米商務長官のラトニックは「2025年末には第1号案件を決める」とトランプ大統領に言っていたのに、金額が大きすぎて計画が追いつかず、期限は2026年1月末、そして2月末へとずるずる延びてしまった。
トランプ大統領はこれに対して「日本がわざと引き延ばしている」と疑っているらしい。実際、高市首相への支持表明の直前に、米国側は日本へこう伝えていた──「トランプ大統領は日本の件で激怒している」と。
表では「全面支持」、裏では「激怒」。このギャップが、3月の首脳会談に影を落としている。
なぜ日本に強く出るのか?──追い詰められた大統領の事情
トランプ大統領が日本に強硬な態度をとりそうな背景には、じつは国内の苦しい事情がある。
ニューヨーク連銀が2月12日に出したレポートが衝撃的だった。トランプ関税の90%は、結局アメリカの消費者と企業が負担していたのだ。「関税は相手国が払うもの」という大統領の持論は、データで完全に覆された形だ。
当然、支持率にも響いている。
- 国民の60%が関税政策に不満を持っている
- 身内の共和党員でも4人に1人が反対に回った
- 2026年1月には純支持率がマイナス20ポイントと過去最低に
こうなると、トランプ大統領としては外交で「わかりやすい成果」を見せたい。そのターゲットとして日本は都合がいい──約束の投資が遅れている、選挙で恩を売った、対米貿易黒字がある。カードがそろっているのだ。
おそらく出てくる「3つの要求」
1. 「約束した投資、早くやって」
これはほぼ確実に言われるだろう。日本政府は第1弾としてガス火力発電、人工ダイヤモンド、港湾の3案件を準備中だ。でもワシントン側の受け止めはもっと厳しくて、「日本からの投資が止まったせいで、軍事基地やLNG、再エネ関連のプロジェクトが全部ストップしている」という認識が広がっている。
スケジュールの前倒しと具体的な計画の提示を、強い調子で迫られるはずだ。
2. 「防衛費、もっと出せないの?」
日本はGDP比2%を目標にしているけれど、トランプ大統領は「同盟国はもっと出すべき」という考えを変えていない。
2025年10月の高市・トランプ首脳会談では、高市首相が先手を打って「防衛力を強化する」と伝えていたこともあり、直接的な増額要求はなかった。ただ今回は投資遅延への怒りが加わっている。**「支持してやっただろう」**というプレッシャーが、防衛費の話にまで波及してもおかしくない。
3. 「日本の市場、もっと開いてほしい」
トランプ氏は第1期政権のころから「日米貿易では日本がずっと得をしてきた」と思っている。この認識はおそらく今も変わらない。
もし日米貿易協定の第2段階交渉に入れば、自動車分野の非関税障壁の撤廃や日本車の対米輸出の数量規制が議題に上る可能性がある。自動車は日本最大の対米輸出品目だから、ここに手を入れられると影響は相当大きい。
もうひとつ気になること──日銀への「見えない圧力」
日経新聞が興味深い事実を報じている。3月の日米首脳会談は、日銀の金融政策決定会合の「直後」に開かれる方向で調整されているというのだ。
これ、たまたまかもしれないけれど、意味深でもある。アメリカ側は日本の円安や長期金利の上昇を気にしていて、それが自国経済に悪影響を及ぼすことを心配している。首脳会談の日程そのものが、日銀の利上げ判断に対するさりげない牽制になっている可能性は否定できない。
日本側の手札は?
もちろん、日本もただ待っているわけじゃない。赤澤亮正経産大臣をワシントンに急派して、ラトニック商務長官と投資スケジュールの立て直しを協議する。高市首相は衆院選で圧勝したばかりで、政権基盤は安定している。国内が落ち着いているのは、対外交渉ではプラスだ。
とはいえ、構造的に見ると日本は不利な立場にある。
📝日本が抱えるハンデ:
- 86兆円の投資約束を果たせていないという「借り」
- トランプの選挙応援を受けたという「恩義」
- 対米貿易黒字がずっと続いているという「構造問題」
本当に問われるもの
3月19日の首脳会談で試されるのは、高市首相の外交力だけじゃない。
トランプ関税のせいで、日本の自動車大手7社は半年間で営業利益が約1.5兆円も減った。大企業が関税コストの70%を自分で飲み込んで、アメリカでの値上げを最小限にした結果だ。おかげで中堅・中小企業への波及は抑えられたけれど、いつまでも続けられるやり方ではない。
「損益分岐点」という指標がある。売上がどこまで落ちたら赤字になるかを示す数字で、低いほど体力があるという意味だ。大企業はこれが53%──つまり売上が半分近くまで落ちても耐えられる。ところが中堅企業は75%、中小企業にいたっては82%。売上がほんの2割減っただけで赤字に転落してしまう計算になる。関税によるコスト増がこの「ギリギリのライン」を超えてしまえば、賃上げや設備投資が止まり、日本経済全体がじわじわと影響を受けることになる。
首脳会談の場で求められるのは、目先のやりとりの巧さだけじゃなく、日本経済の体力をどう守っていくかという、もっと大きな問いへの答えだ。
追い詰められた大統領の怒りと、恩義という名の貸し借り。3月19日、高市首相はなかなかタフなテーブルにつくことになる。


