「小さな代償」の重さ——高市首相はトランプに何を言えるか

「原油が1バレル100ドルを超えた? それはイランの核の脅威を排除するための、非常に小さな代償だ」
トランプ大統領はそう言い切り、反対する者は「愚か者だけだ」とも言ったそうです。
この発言を聞いて、真っ先に考えたのは、安全保障の話でも、核不拡散の議論でもありませんでした。ガソリン代のことです。電気代のことです。スーパーで買う食料品の値段のことです。おそらく多くの人が、同じことを思ったのではないでしょうか。
日本にとって「小さな」はずがない
日本は原油とLNGの輸入の約20%をホルムズ海峡に頼っています。トランプ大統領がイランと戦争を始めた2月28日以降、その海峡の海上交通はほぼ止まりました。
3月9日(月)、原油が100ドルを突破した翌週初め、日本株は大きく下落しました。エネルギーのほぼすべてを輸入に頼る日本にとって、「小さな代償」がどれほど大きく跳ね返ってくるか——その感覚は、おそらくトランプ大統領には届いていないように見えます。
ドイツのメルツ首相は「もちろん我々の経済に損害だ」とはっきり言いました。日本の首相に、それが言えるでしょうか。
「率直に話す」の中身を問いたい
高市首相は3月19日にホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定です。首相は「イラン問題についても率直に話をしてくる」と述べています。
その言葉を聞いたとき、「率直に」の中身が気になりました。
国会での首相の発言を追うと、米軍によるイラン攻撃については「現段階では法的な評価ができるというものではない」と繰り返しています。イランには「核開発をやめよ」と名指しで批判しながら、米国とイスラエルの行動には「評価を差し控える」。この非対称さは、「率直に話す」という言葉と少し食い違って聞こえます。
率直に話すとは、相手が聞きたいことだけを話すことではないはずです。日本の立場から言うべきことを、言いにくくても伝えることではないでしょうか。
心配なのは「無理難題」
今回の会談で押し付けられる可能性が最も高いのは、防衛費の大幅な上積み要求だと言われています。トランプ政権はGDP比5%への引き上げを求めており、高市首相はすでにGDP比2%を前倒し達成したうえで、「必要な能力を積み上げていく」という方針を示しています。
「5%とは直接言われていない」と首相は言います。でも、「上限は示さない」とも言っています。
湾岸戦争のとき、日本は総額130億ドル以上を拠出しました。イラク戦争のとき、小泉首相は米国の武力行使を「支持します」と明言しました。どちらも、対米関係を壊さないための判断でした。そしてどちらも、後になって「あれで良かったのか」という問いが残りました。
今回も同じ構図になるのではないか——そう心配するのは、当然ではないでしょうか。
会談後に何を見るべきか
3月8日の世論調査では、高市内閣の支持率は64.1%です。高い数字です。ただ、前回より3.2ポイント下がりました。
興味深いのは、「米国・イスラエルの攻撃への法的評価を避ける日本政府の対応を支持する」が50.0%、「支持しない」が42.9%だったことです。半数近くが、政府の「曖昧さ」に不満を持っているわけです。
会談が終わったとき、私たちが見るべきは共同声明の文面です。そこに「エネルギー安定供給」「ホルムズ海峡の安全確保」「原油高対策」「在留邦人保護」といった日本側の要求が具体的に書かれているか。それとも、「防衛費増額」「対米投資拡大」「輸入拡大」だけが並んでいるか。
後者だったとすれば、「率直に話してきた」のではなく、言いなりに「うまく持ち帰ってきた」と言うことになります。
「他人事」のように語る相手に
トランプ大統領は、世界の経済への影響を「小さな代償」と言い切ります。その発言が、日本の食卓にどれだけの重さで降りかかってくるか——それを伝えることが、「率直に話す」ということの最初の一歩ではないでしょうか。


